院内報
こあら通信 第120号 2008 April
目次
・医療の不確実性
・相談室からの風景-ファイル・4
・麻しん風しん・日本脳炎
・編集後記
医療の不確実性
桜も咲き始め、思わぬ早さで春がやってきました。花粉症の身にはつらい季節でもありますが、気持ちが浮き立つような感覚は何ともいえないものです。
さて、先日研究会があり、クリニックの時間外の相談電話を受けることを仕事としている医療関係者の発表を聞きました。興味を引かれたのは、子どもが熱を出したときの保護者の対応には、相談したいというタイプと、すぐに診てほしいというというタイプの2つに半々に分かれ、すぐに診てほしいというタイプの保護者は子どもの状態などはあまり考慮せず、「発熱=受診」という思考回路になっているという内容です。
皆さんはお子さんが熱を出したときにどう行動しているでしょうか。「熱が出たのですが診てもらえませんか?」という電話は時間外によくあります。状態をお聞きして説明すると、「それでは明日まで様子をみます」ということで落着することが多いのですが、たまに「診察しないで子どもに何か起こったら責任取るのか」というような乱暴ないい方の保護者もいます。
しかし、診察したら医療者には何でもわかるのでしょうか。そんなことはあるはずがありません。一生懸命診察してもわからない病気もありますし、助けることのできない病気もあります。それを前提に医療が行われているのに、結果が悪いとすぐに医療者が訴えられるという問題が昨今起こっています。このような動きは医療の崩壊につながります。医療者が困るだけでなく、患者さんの理不尽な要求に愛想を尽かし、真剣に患者さんと向き合わなくなる可能性が高いのです。
話を元に戻しますが、子どもが熱を出したとき、まずは保護者の方々が自分で考えるという習慣をつけることが必要です。よく考えて、それでも不安が強いときにはクリニックを受診してください。私たちはどんな病気でも治せるわけではありません。しかし、保護者の方々と不安を共有することはできます。何でもお任せではなく、いっしょに病気や不安に立ち向かうことこそが、大切なのだと感じます。
相談室からの風景 -ファイル・4
子どもが大きくなることって、当たり前のようにも思われますが、でも改めて考えると不思議。妊娠中、自分の身体なのに自分の意志や都合に関係なく、だんだん大きくなるおなかに手を当て、ここでいったい何が起こっているんだろう?と、しみじみと生命の神秘に思いをめぐらせたお母さん、お父さんいらっしゃいませんか?
この地球上の数十億人の中から、お父さんとお母さんが出会ったこともそうですが、1億から2億といわれる精子のうちのたった一つの精子が運んだDNAの片割れと、女性の一生で数百個しか作られない卵子の持つDNAの片割れが出会って、一つの受精卵が誕生するプロセスには、数々のドラマがあります。受精卵の中では、2つのDNAの片割れが一つに合わさって、かけがえのない新しい生命が誕生します。そしてその後、たった一つの受精卵が細胞分裂して、60兆もの細胞からなる人体になっていくのです。
受精から、出生までには、大きく分けて3つの段階があります。
第1段階は、受精から支給に着床するまでの3?5日間、細胞分裂を繰り返しながらも形は球体のまま宇宙遊泳をしている、「卵体期」といわれる時期です。様々な原因により、10個の受精卵のうち、無事着床できるのは7個にすぎません。
数日をかけて着床すると、次が第2段階、「胎芽期」とよばれる時期です。細胞がそれぞれの組織をかたちづくりはじめ、まずは脊椎となる部分からはじまり、3週間くらいかけて、魚のようなかたちから鳥のようなかたちへ、生命の進化の歴史をたどりながら、やっとヒトのかたちになります。心臓や血管もこの時期にできて、最初の鼓動を打ち始めます。受精後8週(妊娠10週)前後には、ほとんどの臓器が完全に形づくられます。この時期の放射線や薬物、ダイオキシン等の影響は、他の時期に比べて格段に大きくなります。
第3段階の「胎児期」は妊娠10週以降、外界での生活を始めていくための準備をしていくため、脳神経をはじめ、血液循環、呼吸、運動、消化器など、様々な仕組みが出来上がっていきます。
また、胎盤を通じた血液循環が完成することで、胎児に効率的に酸素を供給することができますが、この時期にニコチンなどが血液を収縮させると、じゅうぶんな酸素が赤ちゃんに送られず、発育の遅れにつながります。
若い女性や妊婦を喫煙の害から守ることが重要なのは、このためなのです。
小倉
麻しん風しん・日本脳炎
最近問い合わせで多いのは、麻しん風しん、日本脳炎の予防接種の話題です。この2つは一昨年より変更しており、皆さんもご存知なかったり、混乱されているようです。予防接種の病気は、流行を防ぎ、治療よりも予防することが求められています。この機会に母子手帳を開いてみませんか?
・麻しん風しん(MR)ワクチン
去年あたりから、麻しんが流行しているのは皆さんもご存知だと思います。今年は県内で横須賀・横浜を中心に流行し、問題となっています。1回の接種で免疫がつかなかったり、時間の経過とともに抗体が落ちたりするので、確実に免疫をつける為に、世界の国では2回以上接種するのが常識となっています。
2006年から、5~6才の子どもに追加接種できる機会ができましたが、小学校以上の年代には、救済処置がされていません。そこで今月から、中学1年生と高校3年生には、公費で接種できるようになりました。
麻しんはかかると、重症化して死亡するケースもあります。また、妊娠中に風しんになると、生まれた子どもが先天的な障害を持つこともあります。どちらも予防接種で回避できる病気ですから、自分の為だけでなく、もしかしたら抗体のない周りの人の為にもぜひ接種してください。
定期接種時期
第1期・・・1才
第2期・・・就学前の1年間(年長さん)
★平成20年4月1日から
平成25年3月31日までの期間
中学1年生と高校3年生
・日本脳炎ワクチン
「日本脳炎のワクチンが不足しています。」
日本脳炎の予防接種を予約しようとして、こう言われた方が大勢いらっしゃると思います。新しいワクチンを開発中ですが、現時点でも発売の見通しがたっていません。新しいワクチンを開発中のため、現在使用しているワクチンはほとんど製造されていないのが不足している原因です。2006年に重度の副作用が1例だけ出たという理由で勧奨が中止されていますが、日本脳炎という病気は、国内(九州・四国等西日本中心)海外(東南アジア・中国)に今でもあるのです。2007年には九州で1件子どもの患者が出ましたし、東南アジアでは毎年大量に患者が出ています。
200万回に1回の確率で起こる副反応より、日本脳炎にかかることの方が深刻だと考え、今まで使っているワクチンで接種をしている小児科医が全国にはたくさんいます。
当医院では、定期接種の対象となる年齢の終わりが近い方から接種しています。(1期7才半、2期13歳まで)順番待ちの登録後、ワクチンが入り次第こちらからご連絡しております。ご希望の方はご相談下さい。
定期接種時期
1期(2回接種)・・3才~7才半
1期追加(1期より1年後)・・3才~7才半
2期(1回接種)・・9才~13才未満
編集後記
ご入学・ご入園おめでとうございます。4月はおめでとうがいっぱいです。こちらも祝120号!創刊10周年になりました。読んでくださっている皆さんにお礼申し上げます。(先生の情熱、スタッフの協力にも乾杯!)こあら通信は皆さんの情報源であるとともに、私達の考えをお伝えする場でもあります。コミュニケーションの一つのツールとして、皆さんに楽しみにして頂ける院内報を目指しています。これからも、よろしくお願いします。